食品安全学

 

食品安全学-(1)
食の安全・安心施策と健全な食生活

担当 池戸重信

本来、食べ物というものは、その土地、その季節でないと摂取できず、そして加工品などは特定の技能を有した人の手を通したものでないと口に出来ないというのが常識であったが、現在は、どこでも世界中のものが季節を問わず、しかも簡単に調理して摂取可能となってしまった。これが、現代の常識であり、この半世紀での日々たゆまぬ努力がかつての非常識を常識化してきたわけである。長い人類の歴史の中で、これほど食べ物の概念が変わったことはなかったが、これを実現したのは国際的な流通革命と技術対策である。 当然、非常識→常識の非常識度が高いほどリスクは高くなる。特に、流通面では、効率化の追求のため分業化が進展し、その結果、生産→加工→流通→販売・外食→消費という複雑な「フードチェーン」という概念が生まれた。しかも供給サイドと消費サイドとの乖離が進展し「不安」の原因にも結びついている。 こうした状況を踏まえ、BSE問題や表示の不正事件を契機に、政府はリスク分析手法を導入した食品安全行政への転換を図るとともに、フードチェーン全体を対象とした対策に力を入れることとなった。また、供給サイドにおける安全対策と同時に消費者への積極的な情報提供に努めることも食品安全基本法に明記された。すなわち、安心対策もセットでということである。しかも、規制緩和の一環として、基本的には「規制」から「自主的取組み」という原則に基づいている。 現在、供給サイドはこうした自主的な安全・安心対策に関して戸惑いがあるとともに、消費者サイドとしても与えられた情報に対して十分な理解がされていない。 今後の食品安全・安心対策としては、フードチェーンの各段階において的確な安全対策を講ずるとともに、これらに関する全ての組織が連携することにより実効あるトレーサビリティシステムを構築することが消費者に「安心」を提供するための有効手段となる。 ただし、これら有効な情報を正しく理解できる消費者を育てることも重要であり、そのためには官学の教育・栄養指導関係者のみならず食品関連事業者も連携して「食育」を積極的に推進することが重要となる。

 

 

食品安全学-(2)
食の安心・安全のシステム、食を通じた地域づくり

担当 湯川剛一郎

  食の安全・安心の確保には、法律・規制等の制度面の整備に加え、これらの制度の普及・指導を行うとともに実効性を監視するための体制整備が不可 欠である。食品安全委員会、農林水産省、厚生労働省では、様々な機会をとらえリスクコミュニケーションを行っているほか、農政事務所、農林水産消費技術セ ンター、保健所等を通じ、制度の普及や監視を行っている。

   一方、制度の遵守を求められる側である食品等関係事業者にとっては、法律・規制の趣旨や目的を逸脱せず違反をおかさないために、規則、規格、基準を形式的 に守るだけでなく、これらがどのような背景で何を目的として導入されたかまで理解し、その考え方を品質マネジメントシステムの中に活かしていくことが効果 的である。

  食品衛生法、JAS法等に基づく規則や通達類は関係省庁のホームページで公表され、Q&Aなどの形で解説が掲載されている場合もある。しかし、 様々な規制、制度、基準等がどのような事情のもとに導入され、何をねらいとしているかは、企画・立案段階からの議論の流れや変化をフォローする事が不可欠 である。

  食の安全・安心のシステムでは、制度導入の背景、ねらいにまでさかのぼり解説を行うことにより、規格や基準を都合よく解釈したり誤解による逸脱を完全に防止し、質の高い安全マネジメントシステムの構築に資することが必要であると考えている。

  また、食の安全・安心に対する食品関連事業者の取り組みを効率的・効果的に進めるためには、個々の取取り組みでは情報の収集に限界があり、仮に コンサルタントを依頼するとしても高い費用負担が発生する。このため、関係者が協力し、情報を共有しながら課題に取り組むことが必要であり、現に地域レベ ルでの勉強会の開催や研究会の組織は活発に行われている。こうした取り組みを継続的なものにし、さらに新たな技術課題への取り組みの母胎として発展させて いくことも、関係事業者の発展のため重要なことと考えている。

 

 

食品安全学-(3)
時代を反映した食品安全学

担当 田中康之

  “食品安全”とは、その時、その時代において、各食品が科学的証明によって有する”安全性”と考えられがちですが、時代~時代における国民・消 費者の身体・精神両面のリスク許容度に応じた ”安全性”とすべきではないでしょうか?一つの事例ですが、現在の日本人の平均体温は、約50年前に比べ、約1℃下がっているとの事。もしこれが事実であ れば、平均体温低下によって、国民・消費者の免疫力は約30%下がっていることになり、しかもその主たる原因が、筋肉運動不足と食生活の乱れ(身体を冷や す食品を摂りすぎている)にあるとされていることからみて、健康の維持と保持のために適切な食生活を実施して頂くための”食育”を、食品安全学の一環にく わえなくてはならない。 併せて、”交通安全”と”食品安全”とは、全く異質だが、ある意味では共通性があると考えられる。 それは、”交通安全”が、供給者側即ち、自動車・バイク等のメーカーが、真剣かつ真面目に加害者として不利にならぬように常に最善の努力を行ってい る・・・と、弱者側・・・赤信号!皆で渡れば怖くない!・・・と思いつつも、飛び出さぬように注意を払っている・・・の双方の日常の尽力とによって成り 立っているのは無視出来ないことと考えられるからだ。・・・(総論)

 

* 「食品」の供給者(生産・製造・加工・流通・販売)と消費者の双方が共有・共用すべき知識・情報

 

① 各食品の綿密・正確な履歴情報(トレーサビリテイ)・・・生産・製造・加工のみでなく流通・販売迄
② ①に関連する全ての規制・法律が効果的なものか否か?
② 各食品が有する危害(リスク)・・・その過去・現在・近い将来
③ 危害(リスク)防止のための有効な対策・・・限界と効力・業界別
④ 上記(①~④)に関する最新の業界情報(知る事により役に立つ)
⑤ 消費者として、自らの健康維持・保持に役立つ・医学的情報(食育と重なる部分有り)
⑥ 上記①~⑥に関するエピソード・新聞記事(国内・外国)
・・・以上が各論です。

 

 

食品安全学-(4)
食の安全対策における微生物制御技術

担当 池戸正成

  食品の安全性確保のためには、科学的根拠に基づくリスク評価を踏まえた的確なリスク管理、すなわち健康への悪影響の未然防止と最小限化対策が求められる。

  消費者が懸念しているリスクのベスト4は、「残留農薬」「輸入食品(中身としては農薬や食品添加物)」「食品添加物」及び「汚染物質」である。 すなわち化学物質に集中しているが、実際の食品事故の原因としては「微生物」と「ウィルス」が圧倒的に多く、年間食中毒発生件数の85-90%を占めてい る。

  消費者の意識と実態とのギャップの課題は別として、有害微生物類に対する対策がきわめて重要であることには明確である。食中毒の総発生件数のう ち、農薬、添加物等の化学物質によるものの割合が全体の1%以下ときわめてわずかであるのは、使用(施用)時だけ的確な対応をするからであり、これに対し 微生物類は生産段階~消費段階まで、すなわちフードチェーンのどの場面でも「増殖」という特性に由来するリスク拡大が見られるからである。これらの被害を 未然に防止し、かつ最小限に止めるためには、フードチェーンの全ての組織において、的確かつ迅速な微生物チェックが必要となる。特に食品は微生物類の作用 により経時的に品質が変化するという特性を有することから、微生物の同定・定量法は正確かつ迅速、また簡便な方法が求められる。

  近年の有害微生物検出法としては、LAMP法、PCR法といった遺伝子検出法といった原理に基づいて特定の種類をきわめて正確に判定する手法が開発されている。

  しかし、こうした手法を活用したモニタリングを徹底する以前に、有害微生物の発生や増殖を如何に防ぐかということが大切である。すなわち、供給サイドや家庭の現場における適切な食品の取扱い法を積極的に啓蒙することが重要となる。

  そのためには、サルモネラ、腸炎ビブリオ、カンピロバクターといった主たる身近な微生物の由来や特徴を分かりやすく解説することが有効となる。

 
 

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